指導力のある相撲部屋はどこか?
「現在43ある相撲部屋の中で最も指導力のある部屋はどこか?」という質問があった場合、多くの相撲ファンが口にするのは「伊勢ヶ濱部屋」という答えでしょう。
令和4年秋場所現在、幕内に6人の関取を要していますが、「これまで」という表現で、現伊勢ヶ濱部屋の前身である「安治川部屋」を引き継いでから誕生した関取の顔ぶれを並べてみると、、、
日馬富士(横綱)、照ノ富士(横綱)、安美錦(関脇)、宝富士(関脇)、翠富士(幕内)、照強(幕内) 、錦富士(幕内) 、熱海富士(幕内) 、誉富士(幕内)、安壮富士(幕内)
横綱2人を含め、実に10名もの幕内力士を誕生させています。
多くの相撲ファンが思う、「指導力・育成力のある部屋」であり、それを証明するかのような安美錦引退相撲での「自前横綱五人掛かり」なわけです。
旭富士よりも安美錦か?
ここまでの実績から考えると、伊勢ヶ濱親方(旭富士)こそ指導力がある「角界一の名親方」ということになりますが、そんな単純な計算ではないはずです。
旭富士の指導力を疑問視するわけではなく、この部屋の繁栄に安美錦の存在も大きく関わっているということを言いたいのです。
部屋の関取一号となった安美錦がいたからこそ、後の日馬富士や照ノ富士という横綱を始めとした、数々の関取たちの誕生に繋がったわけです。
この安美錦の指導力にも注目しなければいけません。
今回ご紹介するのは、そんな安美錦が引退のタイミングで出版した書籍「けっぱれ相撲道」です。
20世紀に入幕した最後の力士であり、「安美錦のファンは相撲通」と言わせた希代の業師安美錦の土俵人生を順に振り返る、正統派自伝です!
若貴時代、朝青龍、白鵬それぞれの時代を安美錦と一緒に振り返ることが出来ます。
ここを読んで欲しい
貴乃花最後の相手として
私が世代ど真ん中だったこともありますが、「安美錦」と聞くとやはり思い出すのは、平成13年初場所の貴乃花戦です。
この一番で、安美錦は自身初の金星を獲得するのですが、同時にこれが平成の大横綱と言われた貴乃花最後の一番になりました。
北の湖や千代の富士など、時代を担った横綱最後の会いてというのは、それ以降も様々な場面で紹介される一番となります。当然この一番も、何かとメディアで紹介されました。
何かのインタビューでも言っていましたが、安美錦にとって「貴乃花最後の相手」という十字架は長い間プレッシャーとなっていたそうです。
布石を打つ相撲
朝青龍からの金星について語っている章もありますが、そこも要チェックです。
朝青龍から最も多くの金星(4つ)を上げている安美錦ですが、勝利した相撲だけでなく、あえて次の場所に「意識」を高めるため布石を打っており、金星や勝利に至るまでの過程を伝えてくれることで、相撲の奥深さを知ることが出来ます。
「相撲が巧い」と言えば安美錦と言う時代がありましたが、その真骨頂が朝青龍戦。その裏側がこの本には書かれています。
怪我との付き合い方
本人は不本意だと思いますが、安美錦の現役生活の後半戦においては、膝に分厚く巻かれたサポーターは、ある意味安美錦のシンボルでもあり、お馴染みの姿になっていました。
安美錦は現役生活に関わるくらいの大怪我に見舞われながらも、そこから何度も這い上がり、長く現役生活を勤めました。
その経験は、後に大怪我から序二段まで落ちながら、見事に復活を遂げ横綱昇進を果たした弟弟子照ノ富士に多少なりとも影響を与えていると思っているのですが、大怪我を負いながらどう向き合い長く現役生活を送ったのか?という部分に、人間安美錦の魅力を感じました。
安治川部屋の復活
12月1日付けで安治川親方が伊勢ケ浜部屋から独立し、安治川部屋を新設することが理事会で承認されました。
現在の弟子は安治川親方の甥桜庭1人で、当面は江東区千田に仮住まいで部屋を構えて、本格的に転居して始動するのは来年7月1日だそうです。
この本が書かれたタイミングは、まだ独立が正式に承認される前でしたが、コロナを超え断髪式も終え、落ち着いたところでいよいよ親方として本格的に動きだすようです。
そして久々に「安治川部屋」が復活するわけです。
自身が相撲界に入門した際の部屋を、引退後に自ら復活させるというのは、何とも感慨深いものではないでしょうか?
相撲王国と言われ、横綱も輩出してきた青森県。
現役では阿武咲と錦富士がいますが、新生安治川部屋には青森の逸材発掘を期待しています。
相撲人口が激減している令和の世において、安治川部屋は地元の相撲経験者は勿論のこと、異業種からの相撲の世界へ飛び込んで切る若者にとっても、安心して技術を身に付ける窓口になって欲しいと思っています。