朝青龍はなぜ愛されるのか?

白鵬にちょっとモヤモヤする

今なお相撲界で伝説となっている69連勝で有名な双葉山。
戦後の大相撲黄金期を作った名人横綱栃錦と土俵の鬼若乃花。
巨人大鵬卵焼きと言われた国民的英雄大鵬。
憎らしいほど強いと言われた史上最年少横綱の北の湖。
昭和末期の相撲界を席巻した小さな大横綱千代の富士。
怪我を押しての優勝を飾った平成の大横綱貴乃花。

これまで多くの名横綱たちが誕生し、相撲ファンたちを魅了してきました。

そして現在の土俵に目を向ければ、白鵬が横綱として10年以上もの間土俵に君臨し、様々な記録を更新し続けています。

記録だけではなく、いつもファンを意識した優等生なコメントも多い白鵬ですが、一方で立ち合いの張り差しや、度々見せるダメ押しなど「黒い白鵬」と言われて批判があるのもまた事実です。

そんな両面を持つ白鵬を見ていると、複雑な心情になったり、何か中途半端な違和感を感じるファンもいるのではないでしょうか?

何と言うか。。。そう、「あの男」のようにどうせなら思い切って振り切って欲しい、そんな風に懐かしく思っている人も案外多いのではないでしょうか?

オレ様横綱朝青龍

あの男。そうです第68代横綱朝青龍です。

優勝25回、大相撲史上初の7連覇達成、史上唯一(現在も)年間6場所制覇、北の湖以来20年以上更新のなかった年間最多勝の記録を更新など、数々の記録を更新した横綱でしたが、相撲以上に言動で注目されることも多い横綱でした。

勝てば感情のままにガッツポーズ!スイッチが入ればメンチは切る。嬉しかろうが悔しかろうが、とにかく感情のままに叫ぶ。悔しい時は土俵だろうがどこだろうが全力で悔しがる。

「心技体の心が足りない」

白鵬も時々言われるフレーズですが、朝青龍のそれは比ではありませんでした。

しかし何度言われても治らない物は治らない。常に土俵の内外構わず震撼させる最強の「震技体」。優勝場所で突然の引退もある意味朝青龍らしい最後。それでも相撲への愛情は人一倍で、最後は土俵キスして花道を去って行きました。

その姿はまさに「黒でもなく白でもない、俺は青」と言わんばかりのオレ様横綱朝青龍の真骨頂。

中毒性がある朝青龍

朝青龍が相撲界で暴れている当時は「横綱としてどうなのか??」と事あるごとに言われ続けていましたが、10年以上たって思い返してみると、実に人間的で愛すべき横綱だったと懐かく思っている人も多いのではないでしょうか?

今でも本場所や断髪式などで、朝青龍が会場に来ると大きな歓声があがります。そして朝青龍もまた現役時代同様、笑顔で手を振って応えています。私も大関時代にサインをもらったことがありますが、「いいよー」というような感じで気さくに応じてくれ、当初思い描いていた怖いイメージと全く異なっていました。

今回は、今なおSNSでしばしば過激(ストレート)なコメントを発信し、メディアを賑わせている朝青龍の魅力を振り返っていきましょう。

愛すべきキャラクター

誰よりも人間味溢れる横綱

そもそも横綱に対して「愛すべきキャラクター」という表現をすることが失礼極まりないのですが、21世紀に入り相撲人気が低迷期になっていく中、マスコミの目を相撲界に向けさせた功績は光ります。(内容の良い悪いは別にして)

現役当時は「朝青龍=悪者」のヒール役として報道されることが多かったですが、改めて振り返ると何とも人間味溢れる豪快横綱だったことが分かります。

「懸賞受け取り所作が下品」と言われることがよくありしたが、両手での受け取りは他の力士もやっている所作であって、何より片手では取り切れない懸賞袋の量でした。

そして「勝ち名乗りの際にいちいち睨むな」という意見もあったのですが、この右斜め下睨みは、同じ軽量力士として目標にしていた、当時審判長の千代の富士に対して「どうでしたか?」と力強く睨むうちに右斜め睨みになったという噂があります(審判長の位置は、東側力士から見て右斜め下)。何よりその千代の富士が亡くなった際も九重部屋に駆け付け、マスコミ向けではない、本当に落胆した様子でコメントを残していました。

舞の海に対しての「顔じゃない」発言は、縦社会の相撲界においては批判の方が多かった印象でしたが、そもそも横綱の引き際に対して元小結が云々言うのは、
たしかに顔じゃないと個人的に感じるところはあります。

床寿さんが定年退職する場所、「引退の花道を作る」と実際に優勝してオープンカーに同乗しました。

定年する行司さんに懸賞金を渡したのも、朝青龍の頃から報道されるようになったような気がします(私が知らないだけかもしれませんが)。

少し前のテレビ番組で、日本人で誰か横綱になるか?と聞かれた朝青龍は、「いないね」とあっさり回答。

直後に稀勢の里が横綱昇進すると、本気で喜び、稀勢の里が怪我をしながら優勝した際には「泣いた」とコメント。

なんともストレートでまっすぐなお人ではありませんか。有名な骨折サッカー事件にしても、無邪気に楽しんでおられました。

誰よりも感情的な横綱

一方で勝負に対しての執念は凄まじく、礼に始まり時として礼に終わらない事もあった横綱でした。

勝負がついた後も悔しい時は悔しがり、にらみ合いを続け、旭鷲山の車のサイドミラーを壊すというまさに子供の喧嘩状態。

貴乃花に負けた際は、「ちきしょー!」と花道で叫び、「怪我してる足を狙えばよかった」と言ったそうですが、勝利に対しての貪欲さも横綱級でした。

稀勢の里が三段目の優勝決定戦で敗れて花道で涙していた時には、朝青龍から「その悔しさがあれば強くなる」と慰められたそうですが、悔しさが生みだす勝利への力を誰よりも知っている横綱ならではの言葉です。それにしても三段目の名も無き若手力士に声をかけるとは、まさに心優しき映画版ジャイアン。

こうして朝青龍のキャラクターを振り返ってみると、以前内館さんが言っていた「何だかんだで憎めない」というコメントが本当にしっくりきます。

実力も名横綱朝青龍

ここまで朝青龍のキャラクターや言動をご紹介しましたが、ここからは土俵の中での横綱朝青龍に目を向けていきたいと思います。

現役時代の実績から考えると、今一つ評価が低いように感じる横綱朝青龍ですが、優勝回数25回が物語るようにその存在は若き白鵬の壁であり、朝青龍が突然いなくなったことが、白鵬独走を生んだ要因にもなったはずです。

私が感じた「朝青龍相撲」の強さは、そのスピード・運動神経・勝利への執念です。

スピード溢れる連続攻撃

私は、千代の富士が関脇から横綱に駆け上がった頃のいわゆる「ウルフフィーバー」をリアルタイムで見ていないので分かりませんが、もしかすると当時の相撲ファンが千代の富士の相撲から受けた感覚が、私が朝青龍の相撲に受けた感覚に近かったのではないかと思っています。

とにかく早い朝青龍の動きは、力士の動きというよりもアスリートの動きでした。

第一の攻撃で決まらなければ、第二第三と攻め手が休む間もなく繰り出される。
「相手の攻めを受けながら、徐々に自分の形になって攻撃に転じる」ゆっくりとした貴乃花相撲を見ながら青春を送った私としては、朝青龍のスピード感は新たな息吹と王者の誕生を感じさせられました

最近時々話題になることもある「ダメ押し」。朝青龍も注意されていましたが、朝青龍の場合はダメ押しというよりも、攻撃が激しすぎて止まらなかった惰性のような感覚で、「負けない相撲」や「勝つ相撲」ではない、「倒す相撲・ねじ伏せる相撲」と言った表現が合うような攻撃相撲でした。

朝青龍ファンとしてはさぞ勝った後に爽快感が残ったことでしょう。

全身がバネのような圧倒的な運動神経

後ろに回られたり、土俵際で勝負あったと思った瞬間、ギリギリのところで素早く体制を立て直す反射神経や、そこから逆転出来るバランス感覚など、朝青龍は運動神経の良さを感じさせられる取組が沢山ありました。

私が朝青龍の取組で最も印象に残っている一番も、そんな衝撃的な運動神経を見せつけられた一番です。平成16年名古屋場所対琴ノ若戦。

 

 

覚えている方も大勢いると思いますが、まさにアニメの世界です。

「投げられても一回転して着地すれば、地面に着いていないので負けではない」

これまで冗談半分で口にしたことはありましたが、まさか現実になるとは思っていませんでした。

まさに「横綱朝青龍」の超人的な運動神経を現わした一番です。
恐らく相撲以外で別のスポーツをやっていたとしても、一流になったのではないでしょうか?

お相撲さんは身体が大きいので、スピードが遅いイメージを持っている方も多いですが、一線で長く活躍する人は屈強な身体に加え、運動神経も持ち合わせているのです。

他を寄せ付けぬ勝利への執念

「ハングリー精神」

モンゴル力士の出世が多い理由としてよく使われる言葉ですが、朝青龍の場合は他の力士とは一線を画すものだったように思います。

日本で必ず成功してやるという強い気持ちはもちろんですが、「今目の前にある一番に懸ける想いが他の誰よりも強かった」、朝青龍の相撲からはそんな強い気持ちを感じることが出来ました。

本来神事である相撲において、土俵上において喜怒哀楽を表にだすことは美しいことではありませんが、勝ったあとのドヤ顔や雄叫び、負けた時の悔しい表情。
朝青龍の勝利への執念は凄まじいものでした。

貴乃花と最後に取り組んだ一番で敗れた花道での雄叫びを見た時、この力士を超える想いを持つことが出来なければ、朝青龍時代が来る日は近いだろうと予感したものです。

朝青龍流横綱の矜持を

引退が歯切れの悪い終わり方になってしまったので、実績のわりに公式の場で特集されたり、取り上げられる機会が少なく残念ですが、紛れもない実績と、それ以上のインパクトを残した横綱でした。

その技術と横綱の矜持を、後進に伝える機会があれば良いと切実に感じています。

いつかの日かNHK相撲中継のゲストに登場して、自由にしゃべらせてあげて欲しいです。

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