蒼国来を知ってるか?
長く相撲を見ていると、感動的・奇跡的そんなシーンを見ることもあります。
今回お話するのは、中国生まれ中国育ちの中国人初の幕内力士(細かいのですが、中国籍としては史上2人目)、蒼国来です。
部屋に迷い込んだ捨てネコモルと一緒に、荒汐部屋で仲良く過ごす温和そうな顔をした青年蒼国来をご存じでしょうか?
まだ三役昇進や三賞受賞経験もなく、闘志を剥き出しにして取り組むタイプの力士ではないので、お世辞にも目立った力士ではない蒼国来 ですが、見た目の優しそうな雰囲気とは異なり、実は強いハートを持った力士です。
相撲界を激震させた八百長事件
相撲界にとって、今や最大の黒歴史となった2011年の八百長問題。
昔からその存在が噂されてはいたものの、特に物的証拠があるわけでもなく、あくまで「疑惑」で止まっていた大相撲の八百長問題ですが、この時は力士同士で交わされた八百長を臭わすメールが実際に発見され、それが発端となり多くの力士や親方が処分されました。
あの事件は、関与した力士・疑われた力士共に全員が解雇になったと思っている方が多いと思いますが実際は異なっており、問題の発覚後に八百長を認めた3力士(春日錦・千代白鵬・恵那司)に対しての処分は2年間の出場停止でした。
そのため、謹慎期間を抜ければ3力士は現役を続けられることは可能でしたが、2年間も土俵に上がらないことは、精神的にも肉体的にも難しく、彼らは引退を選択しました。
また、その他の20名も「引退勧告」であり、自主的に引退をすれば退職金が支払われるという、処罰というよりも寛大な処置を相撲協会は行ったため、ほとんどの力士が退職届を提出して相撲協会を去ったのですが、そんな中退職届を提出せず、解雇になった際に出た退職金も受け取らず、法廷で相撲協会と争った力士がいました。それが蒼国来です。
もう二度と土俵に戻れない不安もあった中、約2年間にわたるこの裁判を戦い、蒼国来は見事無実が認められ幕内力士としての地位を取り戻すことに成功します。
危険すぎる2年のブランク
見事土俵復帰を認められた蒼国来でしたが、名誉は守られたものの、すんなりと土俵にカムバックすることは難しいと思っていました。
元々幕尻だった蒼国来が裁判中2年以上本場所の土俵から離れ、体重も落ちて体の張りも失っているような状態です。事実周囲からも「絶対に大怪我をする」と言われており、誰より蒼国来自身がそれを実感しているだろうと。
北の湖理事長も謝罪をしたそうですので、協会も年寄名跡の都合をつけるなりして引退相撲を盛大に行えるように手伝い、蒼国来は悲劇の力士として語り継がれていくのだろうと思っていました。
そもそも先の分からない状況の中、気持ちを切らさずにいるのは精神的に困難で、名誉回復をした段階までだろうと。。。
しかしそんな雑音と心配の中、蒼国来はずっと身体を鍛え気持ちを切らさず、再び土俵に上がる準備をしていたのです。
復帰直後の3場所は連続で負け越し十両に落ちてしまいましたが、そこから今度は3場所連続で勝ち越し幕内復帰。
あれから数年、蒼国来は当時の自己最高位を更新し今なお幕内で活躍しています。温和な顔でモルとたわむれる、ちょっと頼りなさそうな青年は実はとてつもない土俵への情熱と強靭なハートを持った奇跡の力士でした。
これからも蒼国来関に期待したいと思います。