横綱が長生き出来ないのは本当なの?

イメージと異なるお相撲さん像

お相撲さんと言えば「気は優しくて力持ち」のイメージが強く、昔から「力」や「健康」の象徴のように捉えられています。

巡業の風景で、赤ちゃんがお相撲さんに抱っこされている場面を見たことがある方もいると思いますが、あの姿にはそんな背景があるのです。

そんな「力人(ちからびと)」としての存在である力士達の頂点に君臨する横綱のそれは更に強く、その四股には邪気を鎮める力があり、その手形は縁起物として重宝されていると聞きます。

このように「豪快さや力強さ」を連想させる力士ですが、その一方で、スポーツ医学の発展してきた現代においては、「空腹で稽古をして一気に食べる」「食べた後に昼寝をする」「体を大きくする(太る)ことを奨励する」など、これまで伝統として行われてきた力士達の食生活を含めた生活様式、考え方など様々なことが、力士が若いうちから持病を持つなどの健康問題に影響しているのではないかという意見も見受けられるようになってきました。

確かに「力士」としての現役時代だけを見れば、「豪快さや力強さ」そのイメージがあるかもしれませんが、引退後に注目してみると、同じ年齢の一般男性に比べ、体調を壊すだけに留まらず、若くして命を落としてしまうケースもあり、特に力士の頂点に君臨していた「横綱」に関しては、現役時代の身体的な負担だけはもちろんのこと、心労的な負担もあり、あまり長生きしていない印象があります。

元横綱達はあまり長生き出来ないのでしょうか?

ということで、今年は八角理事長(元横綱北勝海)が、9月2日に(横審総見の後)観客を入れての還暦土俵入りを行いましたので、元横綱達の引退後の健康面と、還暦土俵入りを絡めて語っていきたいと思います。

還暦土俵入りとは何か?

まずは今年秋場所前にニュースにもなった「還暦の土俵入り」について、一体どんな儀式なのかということを説明したいと思います。

「還暦の土俵入り」とは、大相撲界において最高位が横綱だった者だけに許された、還暦を迎えた際に行うことが出来る土俵入りのことです(そのままの意味ですが・・・)。

一般社会において還暦を迎えた際には、「出生時に還る」という意味合いで赤色のちゃんちゃんこなど、赤色の物を身に付ける習わしがありますが、相撲界においては「長寿祝い」を込めて元横綱だった者が赤い横綱を巻いて、横綱土俵入りを行います。

現役力士のことではない為、還暦土俵入りがメディアに取り上げられることは殆んどありませんが、(現役時代の知名度から、ニュースでも報じられたので)2015年に行われた千代の富士の還暦土俵入りは、もしかすると記憶にある方もいらっしゃるかもしれません。

還暦土俵入りの始まりは第22代横綱太刀山からと言われていますので、22代横綱太刀山以降、昨年土俵入りを行った63代横綱だった旭富士(伊勢ヶ濱親方)までその資格者は現在までで42名がいます。

そのう42名のうち還暦土俵入りを実施出来たのが以下の12名になります。

第22第横綱 太刀山
第27第横綱 栃木山(栃錦の師匠)
第31第横綱 常の花(元理事長)
第44第横綱 栃錦
第45第横綱 若乃花(初代)
第48第横綱 大鵬
第52第横綱 北の富士
第57第横綱 三重ノ海
第55第横綱 北の湖
第58第横綱 千代の富士
第63第横綱 旭富士
第61第横綱 北勝海

太刀山・北の富士・三重ノ海の3人は、土俵入りを国技館で行わなかったので(太刀山と北の富士は還暦時既に相撲協会を退職)、国技館の土俵において還暦土俵入りを行った元横綱は、今回の北勝海が9人目になりました。

42名中12名が土俵入り。この人数は果たして少ないのでしょう?

佐田の山や、栃ノ海、最近では大乃国など、還暦時に存命であっても還暦土俵入りをしていないケースも実は多く存在するので、「還暦土俵入りを行う」ということを、そのまま「還暦時存命している元横綱」と捉えることは出来ません。

とはいえ、先述したように「60歳を迎えた段階で約10キロもある横綱を巻いて土俵入りを行う(四股を踏む)ことが出来る」という、成人男性でも大変そうな所作を60歳を超えて行うことは、ある意味元気な証拠。

元横綱達というは、やはり丈夫な体を持った男たちなのでしょうか?

横綱は長生き出来ないの?

横綱の健康面について始まったのですが、いつの間にか「還暦土俵入り」が話題の中心になってしまいました(笑)

「還暦土俵入り」という観点では、健康面に関して今一つ分からなかったので、今度は単刀直入に「元横綱達が何歳まで存命だったか?」という観点で見てみたいと思います。

先程の還暦土俵入りの話題においては、第22代横綱太刀山以降を対象にしましたが、明治生まれの太刀山が活躍していた当時に比べると食生活も良くなり、日本人の平均寿命も延びましたので、こちらは昭和以降に生まれた横綱を対象にしたいと思います。

45代横綱 若乃花:82歳
46代横綱 朝潮:58歳
47代横綱 柏戸:57歳
48代横綱 大鵬:72歳
49代横綱 栃ノ海:82歳
50代横綱 佐田の山:79歳
51代横綱 玉の海:27歳(現役没)
53代横綱 琴櫻:66歳
54代横綱 輪島:70歳
55代横綱 北の湖:62歳
56代横綱 若乃花(2代):69歳
58代横綱 千代の富士:61歳
59代横綱 隆の里:59歳
60代横綱 双羽黒:55歳

「横綱は短命」という印象が強いだけに、80歳以上の長寿横綱が2名もいたことに驚いた方もいらっしゃるのはないでしょうか?

私の中で長寿横綱といえば、大正12年生まれで80歳まで存命だった第42代横綱鏡里でしたが、現在は当時2位だった長寿記録も5位。一般人同様、元気な元横綱も増えているということでしょうか?

1.梅ヶ谷(初代):83歳3ヶ月
2.栃ノ海:82歳10ヶ月
3.若乃花(初代):82歳5ヶ月
4.北の富士:81歳9ヶ月 ※更新中
5.鏡里:80歳10ヶ月

元横綱の長寿トップ5を調べてみましたが、NHKの解説のお馴染みの北の富士さんの名前も第4位に見えます。最近は体調を崩され解説を休場されていますが、記録更新を期待したいですね。

ここだけ切り取ると、横綱の平均寿命もそれほど短くないような気がしますが、先程挙げた昭和以降の横綱の平均寿命を見てみると「64.2歳」、現役中に急逝した玉の海を除いた13名で算出しても「67歳」。

数字的には、やはり平均よりも短命だというのが分かります。

昭和の大横綱と言われた北の湖が2015年に62歳、2016年には同じく千代の富士が61歳と、共に在職中に亡くなっているのも記憶に新しく、「元横綱は短命」という印象を多くの相撲ファンに印象付けた出来事だったかもしれません。

 

 

また、平均寿命との比較に加えて「横綱は短命」という印象に繋がっているのは、「体調を崩している親方が多い」ということでしょう。日本中の誰もが知っているあの昭和の大横綱大鵬も、引退後36歳の若さで脳梗塞に倒れ、結局後遺症のため理事長など要職に就くことは出来ませんでしたし、スイーツ親方として国技館でも人気者の大乃国も、杖をついている状態で還暦土俵入りは実現しませんでした。

かつての「60歳」や「還暦」というと、おじいちゃん・おばあちゃんのイメージが強かったですが、人生100年と言われる現代においての60歳と言えばまだまだ現役、通過点というのが最近の傾向ではあります。

しかしながら、若い頃から体を酷使し(稽古だけでなく無理やり体を大きくさせる生活を送っている)、現役中には「常に勝つこと」だけでなく「心技体」の充実を求められる過酷な環境が、横綱達の身体に負担をかけているのかもしれません。その中で60歳を迎え、段階で現役の時と同様に重い綱を巻き、横綱土俵入りを行えるということ、ある意味で横綱昇進と同じくらいの偉業なのかもしれません。

横綱は短命というのは嘘ではなかったようです。存命中で最古参である北の富士さんには、来年元気に復帰して頂き、ぜひこのイメージを払拭して欲しいものです。

 

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