貴景勝の”変化”に心を揺さぶられる理由

貴景勝角番脱出の8勝目!

夏場所を6度目の角番で迎えた大関貴景勝ですが、13日目に明生を下して勝ち越しを決める8勝目を挙げ、大関残留を確定させました。

中日を終えた時点で6勝2敗と角番脱出目前となっていたものの、そこからもたつき9日目から1勝3敗。

千秋楽が近づくにつれ相手力士が強く(上位陣に)なっていく大関なだけに、角番脱出が心配されていましたが、7勝5敗で迎えた13日目の明生戦では立ち合い左に動き、明生の体勢が崩れたところを送り出して勝ち越しを決めました。

この相撲に対して八角理事長は、「見られた相撲じゃないけど…。この一番にかける必死な思いだろう。本人もホッとしているのでは」 と一部理解は示しつつも、相撲内容に関しては批判寄りのコメントを残しています。

相撲ファンの中では13日目の貴景勝の相撲を、前日の相撲で負傷している格下明生に対しての「注文相撲」という見方をしている方もいる一方、「変化ではなく当たってからのいなし」「相撲の流れでの動き」と擁護する意見もあります。

はたして13日目、貴景勝が明生に見せたあの立ち合いは変化なのでしょうか?それとも流れの中でいなしたものなのでしょうか?

怪我に次ぐ怪我の中で

変化なのか?それとも変化ではないのか?

結論、私はどちらでも良いと思います。

たとえあの一番で見せた立ち合いが「変化」だったとしても、あの一番は、簡単に「変化」などという言葉で片づけることが出来ないほど、「大関の地位を守る覚悟」と「大関としての責任感」を感じることが出来た相撲だったからです。

そしてこの取り組みだけではなく、今場所の貴景勝の相撲からは、いつも以上の「覚悟」や「責任感」を感じることができ、その一番一番相手に立ち向かう姿は、多くの相撲ファン達の心を動かし、勇気を与えたと思っています。

春場所、綱取りに挑んだ貴景勝でしたが、3日目の正代戦で左膝を負傷。その後も気力で土俵に上がり続けていましたが、6日目の御嶽海戦で悪化させてしまい、3勝3敗で迎えた7日目から左膝内側半月板損傷のため、休場となってしまいました。

春巡業も休場して治療に専念したものの、初日の阿炎戦においても左に動いた立ち合いを見せるなど、序盤戦から角番脱出への不安は拭えませんでした。

「痛み」を口にするのはおろか、素振りを周囲に見せることのない貴景勝が、2日目からは両膝にテーピングを施して出場しました。

遠藤戦で見せた変化や、翠富士や錦富士戦では同級生相手に足を引きずるように前に出て意地を見せました。

貴景勝の持ち味と言えば、立ち合いからのぶちかまし、二の矢、三の矢と相手を圧倒する強烈な突き押しと、残す相手を左からの強烈にいなす相撲です。それを支える下半身の怪我と、立ち合いのぶちかましの武器になる首の慢性的な痛み。

もはや気力という気持ちだけで8つの白星を並べた大関の意地。

取組後に土俵を降りる際には、膝を気にするかのように慎重に土俵を降りる姿を見るたび、何とも言えない気持ちになります。

大関昇進後、相次ぐ怪我に見舞われながらも決して泣き言を言わず己の相撲道を突き進む貴景勝の土俵に誰が文句を言えましょうか。

貴乃花も見せた意地の立ち合い

今場所、立ち合いかわす相撲が何番かあった貴景勝でしたが、思いのほか批判的な声が少なかったのを見ながら、ふと20年数年前の出来事を思い出しました。

表彰式において、小泉首相(当時)が「痛みに耐えて良く頑張った!」と絶叫したあの優勝から、7場所連続で休場をした貴乃花が復帰をした平成14年秋場所12日目。

2敗同士で並んだ貴乃花と、前の場所で3年ぶりの優勝を果たし、この場所に綱取りをかける千代大海の直接対決がありました。

序盤戦星を落としたものの、徐々に土俵勘を取り戻した貴乃花と、先場所の勢いそのままの千代大海、四つになれば横綱、離れれば大関、相撲ファン達が固唾をのんで見守るこの一番。

結果から言ってしまうと、立ち合い貴乃花が大きく左へ変わって千代大海の当たりを交わし、流れの中で叩きこんで勝利を収めて2敗を守りました。

ハワイ勢など大型力士はもちろん、それまで注文相撲など殆んどなかった横綱のまさかの立ち合い変化に大きな驚きはありましたが、この時批判的な意見を聞いたり見た記憶はありません(当時はSNSなどない時代背景でしたが)。

今回「貴景勝-明生」戦を見ながらあの一番を思い出しました。

賛否両論が分かれる「立ち合いの変化」ですが、殆んど批判が生まれない時に共通するのは、その力士が醸し出す「覚悟」と、土俵に掛ける想いや責任感です。

多くの相撲ファン達が、今場所の貴景勝からはそのオーラを感じたはずです。

貴景勝の相撲道は続く

12日目に8勝目を挙げ、6度目の角番から脱出した貴景勝。

怪我の状況を考えたなら翌日から休場をしても良いところですが、5場所ぶりに実現する「横綱-大関戦」を実現するために千秋楽まで土俵に上がりました。

千秋楽結びの一番、立ち合いからまさかの両差しに行った貴景勝でしたが、残念ながら照ノ富士の前に完敗。

しかし、千秋楽結びの一番に「横綱-大関戦」の割が組まれたことは、「番付の重みや意味」が度々話題となった中で意味のあることだったと思います。

大関戦での勝利があったことで、照ノ富士も横綱としての優勝に花を添えられたのではないでしょうか?

2014年9月が初土俵の貴景勝、入門してからまだ10年経っていませんが、26歳で既に満身創痍です。

燃えている太陽にこれ以上燃えろとは言いません。

どうか満足のいくまで己の相撲道を突き進んで下さい。

 

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