霧馬山大関昇進
5月31日、相撲協会は臨時理事会を開き、夏場所11勝をあげた関脇霧馬山の大関昇進を正式に決定しました。
前場所となる春場所で12勝を挙げて初の幕内最高優勝を飾った霧馬山。初場所の11勝、今場所の11勝と3場所合計で34勝となりました。
一日でも早い大関誕生を望む相撲協会の追い風など関係なく、満場一致の見事な昇進でした。
これでモンゴル出身力士の大関昇進は、平成27年に昇進した照ノ富士(一度目)以来6人目となりました。そして驚くなかれ「過去の大関昇進者全てが横綱に昇進」しています。
昇進を伝える使者となった伊勢ノ海親方と枝川親方に対して霧馬山は、「謹んでお受けいたします。大関の名を汚さぬよう今まで以上に稽古して頑張ります」と決意を述べました。
これらの模様は、テレビやネットニュースなどでも大きく報じられたため、見かけた方も多かったのではないでしょうか?
今回はこの伝達式に関わる話を説明していこうかと思います。
伝達式ってなに?
そもそもの話になるのですが、横綱や大関が誕生した際に行われるこの伝達式。一体どんな時に行われ、ルールはあるのでしょうか?
伝達式の正式名称は「昇進伝達式」と呼ばれるもので、番付編成会議において新たに「横綱」「大関」が誕生した際、昇進した力士の部屋に使者が向かい、昇進の旨を伝えるイベントです。
ちなみに今回初めて知ったのですが、使者として式典に向かう親方2名(理事と審判委員各1人)のうち審判員は一門の親方ですが、理事は一門を問わないそうです(たしかにあまり気にしたことなかった)。
この伝達式の歴史は古いようですが、はっきりと「ここから」という起点がないようで、恐らく常陸山の横綱昇進が起源のようです(様々なシーンで登場する常陸山流石は角聖)。
他にも調べていくと色々な逸話やエピソードが出てきますが、要は「新横綱や新大関に昇進した力士の部屋に、使者がその旨を伝えに行き、その模様が報道される」そう覚えておいてください。
四字熟語が必要なのか?
昇進伝達式では最初に使者側から昇進の報告がされ、それに対して昇進する力士が口上を述べるのですが、その口上についてよく聞かれることがあります。
「四字熟語でなければいけないのか?」
四字熟語口上が必須と思っている方は意外と多いようですが、別に口上に四字熟語を入れる必要はありません。
この「四字熟語を入れた口上」が始まったのは、旧藤島部屋の貴乃花、若乃花、貴ノ浪の3力士が続けて横綱や大関に昇進した際、昇進伝達式において、「不撓不屈(ふとうふくつ)」「一意専心(いちいせんしん)」「 勇往邁進(ゆうおうまいしん) 」「不惜身命(ふしゃくしんみょう)」「 堅忍不抜(けんにんふばつ) 」など四字熟語を使った口上を述べ、大きく報じられた辺りからです。
この時以降、昇進伝達式において四字熟語を用いることが多くなり、伝達式があると「今回は四字熟語を使うか?」などと注目されるようになりました。
ではここからは、四字熟語の起点となった、若貴の昇進伝達式以降の口上をまとめて紹介します。懐かしいなあ。
四字熟語を使用した例
まずは四字熟語を使用したケースから。横綱昇進も果たした力士は大関昇進時・横綱昇進時両方をご紹介します。
貴乃花
「不撓不屈」の精神で相撲道に精進いたします(大関昇進)
└ どんな困難に遭っても挫けないこと
相撲道に「不惜身命」を貫く所存でございます(横綱昇進)
└自分の身をかえりみないで物事にあたること
若乃花
今後も「一意専心」の気持ちを忘れず、相撲道に精進致します (大関昇進)
└他の事を考えず、一つのことだけに力を注ぐこと
「堅忍不抜」の精神で精進していきます(横綱昇進) ※間違えましたが
└ 心を動かさず、じっと我慢して堪え忍ぶこと
貴ノ浪
今後は相撲道に「勇往邁進」する所存です(大関昇進)
└目的に向かってまっしぐらに進んでゆく
武双山
大関として常に「正々堂々」相撲道に徹します(大関昇進)
琴光喜
いかなる時も「力戦奮闘」し、相撲道に精進します
白鵬
大関の地位を汚さぬように、「全身全霊」を懸けて努力します(大関昇進)
横綱の地位を汚さぬよう、「精神一到」を貫き、相撲道に精進いたします(横綱昇進)
日馬富士
今後も「全身全霊」で相撲道に精進します(大関昇進)
横綱を自覚して、「全身全霊」で相撲道に精進します(横綱昇進)
琴奨菊
大関の地位を汚さぬよう「万理一空」の境地を求めて、日々努力精進致します
└ 一つの目標に向かって努力し続けること
高安
大関の名に恥じぬよう、「正々堂々」精進します
正代
大関の名に恥じぬよう、「至誠一貫」の精神で相撲道にまい進して参ります
└ 最後まで誠意を貫き通す
四字熟語のイメージが強い昇進伝達式の口上ですが、こうして並べてみると、意外に少ないです。この後紹介する中にも貴景勝の「武士道精神」や豪栄道の「大和魂」などありますが、「四字熟語」で分けるとそれほど数はありません。※一生懸命は四字熟語には含まず。
四字熟語を使用しなかった例
反対に口上に四字熟語を含まなかったケースをご紹介します。
武蔵丸
日本の心を持って相撲道に精進致します(大関昇進)
横綱の名を汚さぬよう、心・技・体に精進いたします(横綱昇進)
千代大海
大関の名を汚さぬよう相撲道に精進、努力いたします
出島
力の武士(もののふ)を目指し精進、努力致します
雅山
大関の名を汚さぬよう、初心を忘れず相撲道に精進、努力致します
魁皇
大関の地位を汚さぬよう稽古に精進します
栃東
大関の名に恥じぬよう、稽古に励み、努力精進致します
朝青龍
大関の名に恥じぬよう、一生懸命頑張ります(大関昇進)
横綱の名を汚さぬよう、稽古に精進します(横綱昇進)
琴欧洲
大関の名に恥じぬように稽古に精進します
把瑠都
稽古に精進して、栄誉ある地位を汚さぬよう努力いたします
稀勢の里
大関の名を汚さぬよう、精進します(大関昇進)
横綱の名に恥じぬよう精進します(横綱昇進)
鶴竜
これからも稽古に精進し、お客様に喜んでもらえるような相撲が取れるよう努力します(大関昇進)
これから、より一層稽古に精進し、横綱の名を汚さぬよう一生懸命努力します(横綱昇進)
豪栄道
これからも大和魂を貫いてまいります
照ノ富士
今後も心技体の充実に努め、さらに上を目指して精進いたします(大関昇進)
不動心を心がけ、横綱の品格、力量の向上に努めます(横綱昇進)
栃ノ心
親方の教えを守り、力士の手本となるように稽古に精進します
貴景勝
大関の名に恥じぬよう、武士道精神を重んじ、感謝の気持ちと思いやりを忘れず、相撲道に精進してまいります
朝乃山
大関の名に恥じぬよう、相撲を愛し、力士として正義を全うし、一生懸命頑張ります
御嶽海
大関の地位を汚さぬよう、感謝の気持ちを大切にし、自分の持ち味を生かし、相撲道にまい進してまいります
二子山部屋勢の昇進が続いた後に昇進した力士達は、むしろシンプルな口上が多かった印象ですが、ここ最近昇進した力士は栃ノ心の「親方の教え」、貴景勝の「武士道精神」、御嶽海「自分の持ち味」、朝乃山「愛と正義」など個性ある口上が多くなかなかに楽しいです。
「大関の名を汚さぬよう今まで以上に稽古して頑張ります」
今回の昇進伝達式において霧馬山が述べた口上です。
大関昇進が決まった日、霧馬山が来場所から、師匠である陸奥親方の現役時代の四股名「霧島」に改名することが決まりました。
霧馬山という四股名で横綱を目指すのではなく、怪我と共に果たせなかった「綱取り」を再び霧島が目指すことになりました。