数年前はメディアがこぞって取り上げていましたが、大相撲界では2年に一度初場所後に理事選というものが行われています。
ここ最近ではあまり注目されなくなったため、最近は理事選をやっているのか?と思っている方もいらっしゃるかもしれませんが、もちろん定期的に行われており、今も昔も変わらず相撲界の大切な行事です。
先日少し理事選の話になる機会があったので、今回はこの大相撲の理事選について、相撲に詳しくない方でも分かるように説明していきたいと思います。
最近選挙は行われていない
そもそもなのですがこの理事選、「最近注目されなくなった」のではなく、「数年前が注目されていただけ」なのです。
私が若い頃の理事選の印象といえば、知らないうちに理事が決まり、いつの間にか理事長も決定、月刊相撲の巻頭インタビューで理事長が抱負を語っている。
まるで「国民の知らない所で首相が決まっている」ような、角界の裏側で起こっている出来事という印象でした。
一時期理事選が注目され、現在は注目されなくなった理由は唯一つです。
それは「貴乃花がいなくなったから」で、もっと正確に言えば「選挙が行われていないから」です。
そもそも理事選ってなに?
いきなり話が逸れてしまいましたが、そもそも理事選とは何なのか?についてご説明します。
相撲協会は10名の理事を中心に運営がされており、理事選とはその「理事」いわゆる相撲協会という組織の役員を決める選挙のことです。
理事の任期(1期2年)満了に伴い、次の役員候補の立候補を受け付けるのですが、その際に定員である10名を超える立候補者がいた場合には選挙が行われます。
ここ数回の理事選がほぼ話題にさえ上がらなかったのは、立候補者の数が10名ちょうどだったために「選挙」が行われず、すんなりと理事の顔ぶれが決まったからです。
しかし実際のところ、この理事選において選挙が行われることはこれまで稀で、前述したように「ここ最近が注目され過ぎていただけ」というのが、相撲ファンにはしっくりくる表現のような気がします。
事前調整が真の理事選
ではなぜ選挙もなく簡単に決まってしまうのか?という背景ですが、これにはしっかりと事前の「裏工作」が存在しているからです。
相撲界には一門という物が存在しており、相撲協会で勤務している親方はどこかの一門に所属しているのですが、理事改選の際は、理事全体が10名になるように各一門内で人数調整行って立候補者を立てているので、選挙が回避される仕組みになっているのです。
万が一選挙になった際、当選基準は10票前後になることが多いので、一門に所属している親方の数(一門の規模)を基準に、立候補させる親方の人数が暗黙の了解的に決まります。
一門内で立候補する親方は、年功序列や部屋の力などで決まっているようで、まさに組織で行われる慣例や根回しに似ているかもしれません。
下記は参考程度に各一門と所属する親方の人数になります。
(各一門に所属する親方の人数)
出羽海一門:36名、二所ノ関一門:30名、時津風一門:16名、高砂一門:11名、伊勢ヶ濱一門:12名
以上の規模(人数)から、各一門毎の理事枠が決定します。
出羽海一門:3名、二所ノ関一門:3名、時津風一門:2名、高砂一門:1名、伊勢ヶ濱一門:1名 ※今回の一門毎の理事数
選挙になった場合は、別の一門に票を回したり、枠数を調整したりする選挙協力も行われますので、まさに国政選挙に似ています(この部分がマスコミで大きく報じられていました)。
最近はあまり見かけませんが、改選のある年の初場所で急に引退して年寄襲名する力士がいた場合は、この理事選での得票数に関係していることもあります。
※現役力士には投票権がないのですが、引退して親方になることでその一門に1票増える計算になります。
相撲協会のトップである理事長は、選ばれた10名の理事達の中から選出するのですが、こちらに関しても10名の中で既に決定しているので、決戦投票になることは殆んどありません。
「選挙」それは即ち事件
通常であれば、何事もなく終わる理事の選出ですが、これまでこの「慣例」が崩れたことが何度かありました。
理事選において始めて選挙が起きたのが1998年。
当時の境川理事長が打ち出した「年寄名跡改革」に対して、選挙を用いて親方衆が反発したことで選挙になりました。理事選や得票数などに始めて注目が集まり、理事長に親方衆が反対することに驚いた記憶があります。
その後何期かは、「境川下ろし」の影響で選挙が続きましたが、次に大きな動きとしてあったのが、10年ほど前に世間を賑わせた有名な「貴の乱」です。
貴の乱を簡単に説明すると、理事選前に行われる一門内の調整に意を唱え、年功序列の慣例を破り貴乃花が一門を割った出来事が「貴の乱」でした。
貴乃花退職直後には「貴乃花の改革とは何だったのか?」という声もありましたが、この理事選に対して意を唱えること自体が、相撲協会においては歴史的な出来事でした。
貴の乱後、貴乃花一門が出来たこともあり、しばらくの間は立候補者の人数調整が難しくなったことにより選挙がありましたが、退職後は元の状態に戻ったため、理事選は再び無風となっています。
理事選から未来の相撲界を考える
と言うことで、今回は大相撲界の「理事選」についてご説明させて頂きましたが、ご理解頂けましたでしょうか?
理事選は、一門内外での力関係や、未来の角界を誰が担っていくのかなど、土俵外の出来事ながら興味深いことが満載ですので、ぜひ注目してみて下さい。
次回は、2年後2024年の初場所後です。
(ちなみに外部理事と副理事という役職も各3名ずつ存在していますが、今回はそちらには触れておりません)