それぞれのプライド-貴景勝VS照ノ富士-

今年は新型コロナウィルスの影響で夏場所だけでなく巡業も中止になり、角界にも犠牲者や感染者が出たりと残念な出来事が続いた一年でした。
そんな経験したことのない雰囲気の中で行われた今年の大相撲一年納めの場所は、大関貴景勝が2度目の優勝を飾りました。

横綱にあとわずかまで迫りながら怪我のために番付を大きく落とし、薄暗い館内から再スタートした元大関。
平成の大横綱の愛弟子として地力をつけ、若さ溢れる相撲で駆け上がるも怪我で仕切り直しを余儀なくされた若き大関。
お互いのプライドがぶつかった優勝争い。千秋楽の本割と決定戦は、こちらまで伝わる緊張感と、それぞれ勝った瞬間の表情に様々な想いを感じることが出来、何とも言えない2番だったと思います。

本割敗れての決定戦、貴景勝がどう取るのか注目しましたが、自身の突き押しを信じた迷いのない素晴らしい相撲!
初優勝をきっかけに一気に大関まで駆け上がった貴景勝でしたが、それ以降の2年間は度重なる怪我で大関陥落も経験しました。
ここ最近は相手力士の中に「組んでしまえば何とかなる」という意識が生まれており、貴景勝もそれが分かっているからこそ無理やり押し勝つことにこだわり過ぎのようにも感じていました。加えて膝の怪我の影響か落ちる場面が増えたりと、次々と襲い掛かる怪我も含めて何となく全てが悪循環に陥っているような印象でした。しかし今場所は立ち合いの威力から相手を圧倒する相撲や、相手が廻しを取りにくるタイミングでのいなし、突き押しの威力があるからこそ絶妙に決まる叩き。悩んだ2年間を払拭するかのような大関相撲でした。
多くを語らず感情を出さない貴景勝の涙が、彼のここまでの苦労とプレッシャーを語ってくれました。
いよいよ初場所は初めての綱取り場所。
これまでの常識では難しいとされている 押し一本での綱取りですが、見事成功させればこれから先語り草になる綱取り物語になるはずです。

一方、根こそぎ持っていくような豪快な相撲で横綱が見えていた頃とは打って変わり、終盤は頭を付けての丁寧な相撲が目立った元大関。
貴景勝戦では、他の力士が圧倒された突き押しやいなしに堪え、得意の形で寄り倒しました。場所中から口にしていた「目の前の一番に集中」という言葉の通りの淡々とした勝ち名乗りと、決定戦に敗れた時の悔しそうな表情に、酸いも甘いも経験した漢のプライドを感じました。
照ノ富士は、怪我さえなければ横綱になっていた力士だと今も確信しています。
白鵬ら昭和生まれの横綱から土俵の主役を奪い、平成生まれの横綱時代へ歴史を作る旗頭だったと思っています。

歴史に「もしも」はないですが、怪我無く横綱になっていた照ノ富士から、
さらなる時代を奪おうと相対する貴景勝。
今場所はそんな違う未来も想像させてくれた終盤の優勝争いでした。

平成生まれ初の昇進や受賞関連は、舛ノ山・高安・照ノ富士が達成しています。
その総決算として、令和3年は平成生まれ初の横綱が誕生するのか?
そして史上最大の大関復帰はあるのか?
初場所の初日が楽しみです。

力士の皆さん今年は相撲以外でも色々と大変な一年だったと思います。
本当に一年間お疲れさまでした。

そして貴景勝、結婚おめでとう。

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