朝乃山はなぜ負けたのか?

朝乃山まさかの敗戦

復帰となった名古屋場所で三段目優勝を果たし、秋場所の番付けは幕下15枚目に昇進した朝乃山。

「幕下15枚目以内で全勝は優先的に十両昇進」という内規があるため、多くのファン達は秋場所の朝乃山に「全勝で幕下1場所通過での関取復帰」を信じ、早期での上位復帰を期待していました。

関取復帰を目指す元関取や、関取への昇進を目指す若手力士など、まさに猛者がひしめく幕下上位ですがそこは元大関、初日から危なげなく白星を重ねて5連勝。

しかし、予想通りの全勝優勝が見えてきた6番相撲、東幕下28枚目の勇磨(阿武松)との対戦で、予想外の展開が待っておりました。

立ち合いから得意の右が差せず、突き押しで攻める展開となりましたが、それでもじりじりと相手を土俵際に追い詰める朝乃山。

ところが、回り込む相手を追った瞬間相手の左からの突き落としを喰い、ばったりと前に落ちました。 朝乃山痛恨の黒星!

秋場所最後の一番となった、西幕下20枚目の栃幸大(春日野)との一番は勝利を収め6勝1敗で終えたものの、この敗戦により、年内での関取復帰が絶望となり、来場所は幕下1桁の番付で再び「関取復帰」を目指すことになりました。

名古屋場所同様、幕内力士と同じくらい(それ以上?)の注目を集めた「幕下朝乃山」ですが、今回は「なぜ朝乃山が負けたのか?」ということについて考えていきたいと思います。

更にそこからもう一つ考えたいテーマがありますが、それは後半で。

突き押しは波乱が起きる?

今回の朝乃山の敗戦理由、それはズバリ朝乃山の展開になれなかったから、もっと言えば「四つ相撲の展開になれなかったから」です。

朝乃山得意の右四つでなかったとしても、四つ相撲の展開になれば基本的には、「強い者が強い」というのが一般的です。

たとえ得意の組手でなかったとしても、実力差があればあまり関係なく、相手を捕まえてしまう「四つ相撲」の場合、意外な展開に発展する瞬間が少なく、実力や番付通りの結果になる可能性が高いです。

一方で、突き押し相撲というのは、離れて相撲をとる展開になるので「足が滑る」「バランスを崩す」「ふいに退いてしまう」など、力関係とは別のところで、アクシデントが起こり、強者にわずかな隙が出て予想外の展開になることがあります。

今回の一番はまさにその典型的な展開であり、極端な話幕下力士の勇磨が元大関である朝乃山に勝利を収めるには、この展開しかないのです。

取組後の朝乃山は、取材には応じなかったそうですが、恐らくこの位置で自身が敗れることがあるのであれば「この展開しかなかった」と思っていたはずです。

とはいえ、この一番に勝利した 勇磨の相撲を称えたいと思います。中卒叩き上げで一度は番付外に落ちた苦労人、「自分に自信を持てる一番です」という言葉の通り、 この「大関からの勝利」を糧に、2度目の対戦でも勝利を収めてください。

なぜ突き押し相撲は横綱になれないか?

ここまでの話しの流れから、ここからは本日2つ目のテーマ「なぜ突き押し相撲は横綱になれないか?」のお話をしていきたいと思います。

ここまで読んで頂いてお分かりかと思いますが、結論は「突き押し相撲」の場合、四つ相撲に比べるとハプニングが起きる確率が高いからです。

先程お伝えしたように、足が滑ったり、離れて相撲を取ることでバランスを崩したり、相手の突きを嫌ってふいに退いてしまったりと、実力差を超えた展開に発展する可能性を秘めているのが突き押し相撲。相手がずっと実力が下の力士にも関わらず、足が滑った所を叩きこまれて。。。相撲には万が一が存在するのです。

そして「なぜ突き押し相撲は横綱になれないか?」 二つ目の理由として挙げられるのが、精神的な部分になると思います。

「突き押し相撲は連勝と連敗のムラがある」とよく言われますが、立ち合いからの流れやリズムが重要になる突き押し相撲にとって、立ち合いの駆け引きは重要です。

勝っている時は気分良くリズムに乗っていけますが、負けると色々と迷いが生じ、「相手が変化するのか?思い切って来るのか?」など、人間なのでどこかでわずかの躊躇が生まれたりなど、負のスパイラルに陥る力士をしばしば見かけます。

多くの相撲ファンがご承知のとおり、横綱の昇進条件は「2場所連続優勝かそれに準ずる成績」、これはつまり「連敗をしない安定した成績」を求められるということになります。

一部の限られた力士にさえ、そう何度も巡ってこない「綱取りのチャンス」において「取りこぼし」は許されなく、まして連敗ともなれば致命的になるのです。(もちろん「横綱昇進後」も連敗はNGなのですが、連敗連勝は「綱取り」のタイミングでは非常に重要になってきます)

実力通りの成績が収めやすく、万が一の出来事が起こりにくい。そうなってくると、どうしても「突き押し相撲」よりも「四つ相撲」の方が綱取りを成功させ、綱を張り続けるには適正が高いのです。

 

平成以降の横綱も四つ相撲?

では実際にはどうなのか?

平成以降に横綱昇進を果たした力士の顔ぶれを見てみましょう。

旭富士、曙、貴乃花、若乃花、武蔵丸、朝青龍、白鵬、日馬富士、鶴竜、稀勢の里、照ノ富士

もしかすると曙は、「突き押し」のイメージが強い方も多いかもしれませんが、充分に四つ相撲も取ることが出来、事実貴乃花と互角に渡り合い、四つ相撲の末に勝利を収めたことが何度もありました。

そして、武蔵丸にも突き押しをイメージするかもしれませんが、武蔵丸こそ四つ相撲が完成したからこそ横綱昇進を果たし、貴乃花も晩年は武蔵丸の四つ相撲には大苦戦をしました。

平成以前の横綱を見てみても、突き押し一本で横綱になったイメージの横綱は数少なく、四つ相撲の割合に差はあれど、多くの力士が、実力を付ける→四つ相撲で成績が安定。この流れで横綱昇進をしているようです。

だからこそ多くの相撲ファンが、右四つという自分の型を持った朝乃山を「横綱候補」と言い、突き押し一本で横綱を目指す貴景勝の難しさを、相撲ファンはみな理解しているのです。

ということで、秋場所朝乃山まさかの敗戦から話が発展し、「なぜ突き押し相撲は横綱になれないか?」 ということについて書かせて頂きました。

こうしてご紹介したこれまでの事例を理解しつつも、貴景勝が頭から行く姿を見ると、胸が熱くなりますね。

そして、朝乃山はこの期待に応えることが出来ればいいのですが。。。

組めずにそのまま押し出され悔しがる四つ相撲の力士、組まれて何もできずに寄り切られる力士。来場所からは、突き押しと四つ相撲の攻防にも注目してみてください。

にほんブログ村 格闘技ブログ 相撲・大相撲へ
朝乃山なぜ負けたか?
最新情報をチェックしよう!
広告